全てが燃えて消える
父が亡くなった。
先月の24日のことだ。
人が1人亡くなるというのは、大変なことなんだなあ。
様々な手続きをせねばならず、葬儀なども滞りなく行われるように、そればかりを気にしていた気がする。子どもたちが飽きてしまうだろうな、久しぶりに会う遠い親戚にご挨拶しないと、お手伝いして下さる人達に失礼のないように…。
父は冗談みたいに、棺の中にいた。
まあ、そんなに気にしなさんな、皆さん分かってるから。なんて言いながら、ガコッと蓋を開けて出てきたりして。
フワフワとしながら、そんな事を考えていた気がする。
そして父は骨になった。
嘘みたいだね。母と二人でそんな話をした。
骨はとてもしっかり残っていて、足の骨は太く、頭蓋骨も目鼻や顎がきちんと残り、ああ、父はやっぱり、死ぬにはまだ若かったんだなあ、と思った。
でも、あれが父の骨だってことが、なんだかよく分からない。
全部燃えてしまったのだ。骨を残して。
父の思いも全て消えた。脳が消えたのだから。
父の思いは消えた。孫をおもう気持ちも、私たち子をおもう気持ちも、妻である母をおもう気持ちも、父の気持ちは全部消えてしまった。
もっと生きたいと願い、先に逝くことを詫び、治らない事が辛いと訴えた最期の思いも全て。
思い出の中に生きるなんて嘘だ。それは私の思いであって、父の心そのものではない。
私が生まれてから、父が私を慈しんでくれたその心は、もうない。なくなったのだ。
父は消えてしまったのだ。